六ツ角研究室(ムツラボ)

ムツカドあたりから流れる音楽のごときニュアンスを

口立て。

つかこうへい氏は、稽古中にその場で、頭に浮かんだセリフを役者に伝える「口立て」という演出法で芝居を創った。
役者やその場の雰囲気によってセリフは変わるわけだから、数あるバージョンの「熱海殺人事件」だけでも、さらに違うバリエーションが提示される。時に支離滅裂、時にパンクに、見る方にとっても都度真剣勝負だった。
彼の舞台は、いつも同じように見えて、いつも新鮮な驚きに満ちていた。

大分市ジョイントして劇団をやっていたこともあり、ある時期九州によく来られていたので何度か取材をさせてもらったことがある。
口角泡を飛ばし、いつも何かに怒っていた。
「なんだか素敵に怒っている人」
それが接する度に強度を増すつかさんのイメージだった。
その矛先は、日本の超メジャーミュージカル劇団だったり、地方自治体だったり、若い役者だったり様々だったが、その『つか節』が心地よかったのは何故だったのか。

アイドル事務所にJに所属している若い男の子達の舞台度胸と、基礎体力、根性の座り方を絶賛していた。
テレビの女優の魅力をきちんと理解し、舞台で丸裸にして磨きあげた。
口は悪いし下ネタ満載だが、人を見る眼が凄い人であった。
彼の発言は怒りと尊敬が何層にも重なって放たれた。

病床でもビデオを見ながらの「口立て」は健在だったという。
つかこうへいが亡くなった。
ルーツは韓国、そして福岡の筑豊地区。
嘉穂劇場という古い劇場で芝居を創ることになって、憎まれ口を叩きながら、押さえきれずにはにかんだつかこうへいの笑顔が忘れられない。

7#12、福岡に雨が降り続いている。